さすらい喫茶

「川と見立てたその煌めきを」

  2日間続いた丘陵地帯を抜けて、これからは景色が一転、いくつかの湖の畔をトレイルは通過する。雲一つない空を映した湖面は淀みなき群青色。視界の脇を流れる木々は葉を黄色くして、秋は近づきつつあるようだ。今日は一つやりたいことがある。オレンジ色の夕陽がまぶしい頃、僕は自転車を走らせながら辺りをキョロキョロする。やがてある場所でペダルを止め、テントを張る。そこはキャンプ場でもなければ灯りさえも無い湖の畔。今晩はきっと満点の星空を拝むことが出来るだろう、そのためには一切の人工的な灯りは必要で無い。その夜、期待を込めて空を仰いだが、月が煌々と輝き、思ったほどの星は見られなかった。月は確かに美しいし、野宿の身には心強いんだけど。

夜中、フと目が覚めた。思い出したようにテントのジッパーを開けて首を上げると、そこには息を飲むような無数の星たちが漆黒の闇の中で煌めていたのだ。東の空に伸びる白い帯。なるほど、あれは確かに川のようにも見える。

「有難い。」

僕は一人手を合わせ、その夜空を大切に、飽きることなく眺めていた。


「孤独のサイクリスト達」

  「これが俺の国の定番の朝ごはんなんだ、力が出るよ。」

ベンはスプーンで小鍋の中を回しながら言った。オートミールを牛乳で炊いた、日本で言う「おかゆ」のようなものだろう。

ベンはKurowのキャンプ場で知り合ったサイクリスト。孤独を好む気難しそうなオヤジだと思っていた。しかしこの先のルートを詳しく教えてくれたり、孫の話になると、そのニヒルな顔をほころばせた。A2O上でサイクリストとはよくすれ違う。その多くはそれなりにお年を召されていてグループであることが多い。荷物は全く無いか、最低限の物しか積んでいない。おそらく泊まりは常に宿だろう。いや、どう楽しもうが自由なので、それに対しどうこうは一切無い。ベンも年はずっと僕より上だけど、彼は一人でキャンプしながら旅をしている、そしてこんな若造にも対等に話してくれる。この旅で初めて自分の世界に近しい人と仲良くなれたことが単純に嬉しかったのだ。僕たちは目的地が逆方向だったので、互いの旅を称え合い、またペダルをこぎ出した。


「明日もまた旅が出来る」

  Oamaruを出発した途端、なぜだか雨はすぐ止んだ。町の中心を抜け、やがて住宅も点々としてきた頃、ある所で道は黒いアスファルトから羊色のオフロードへ姿を変えた。"Alps

2 Ocean"と呼ばれるサイクル・トレイルの始まりだ。Mt.Cookの麓まで続くこの道には、NZらしいダイナミックな景色を期待している。A2Oに入り、早くもその片鱗を見せ始めた。牧場が周りを囲み出し、馬や羊が珍しそうに僕に目をくれる。やがて民家は一軒も無くなり、低く垂れこめた鉛色の曇天の下、重なる丘の群れが地平線の向こうまで続いている。ここで倒れたって、助けを呼ぼうたって、きっと誰もやってこないだろう。昨日まで町中で便利な生活を送っていた。一抹の不安を感じる中、その静寂と目の前に広がる大きな自然は妖しく官能的で、胸の底からゾクッとするような興奮を覚えた。薄暗さが増したころ、キャンプするのに適当な広場を見つける。ささやかな夕食の後、ドリップして淹れたエチオピアのコーヒーをすすると、その香ばしさと甘酸っぱさが、いつになく美しく感じられた。「明日もまた旅が出来る。」喜びを胸に秘め、寝袋にくるまった。



「Coffee life at home」

ご自宅で本格コーヒーを。気の合う仲間とおうちカフェ。

ペーパーフィルター

  日本人には馴染み深いペーパーフィルター。ドリッパーと呼ばれる円錐型の器具に紙のフィルターと挽いた豆をセットし、湯を注いで抽出する。味わいは濁りが無くクリア。手軽に見えるが、注ぎ方で味を調節でき、実は奥深い。世界でも浸透した抽出方で、最近は「ケメックス」など新しいドリッパーも開発され、器具による微妙な味の違いも楽しめる。近頃クライストチャーチでもフィルターコーヒーを提供する店が増えているようだ。

プランジャー(コーヒープレス)

  円柱型の器具に挽いた粉を入れ、お湯で浸し、一定時間待った後、金属フィルターで一気に抽出液を漉し出す方法。金属フィルターの特性上、コーヒーの油分や微粉など、ペーパーフィルターでは出せない独特の風味を味わうことが出来る。抽出を待っている間、他の用事が出来るので、忙しい朝に便利かも。スーパーでも安価で器具が手に入る他、ペーパーフィルターを買い足す手間が無いという利点も。

エアロプレス

  近年開発された全く新しいコーヒーアイテム。構造はシンプル、プランジャーに似た円柱型。ピストンの要領で空気圧をかけながらコーヒーを抽出していく。短時間で操作も簡単、片付けも楽。ペーパードリップにはない、アロマや油分を味わうことが出来ます。今、世界中のバリスタやコーヒー好きの間でモテモテの抽出法。豆の良し悪しがダイレクトに反映されるので、焙煎所の新鮮な豆を購入し、出来るだけ挽きたての粉で淹れることをお勧めします。

マキネッタ

   細長いヤカンのような形、コンロの上に直接置き、得られるコーヒーは少量でコクが強いことから、日本では「直火式エスプレッソマシン」とも呼ばれるが、実際抽出方法も味もカフェで淹れられる「エスプレッソ」とはまた別物。イタリアでは一家に一台マキネッタがあると言われ、日常的に楽しまれています。飲み物としてだけでなく、アイスにかけて「アフォガード」また「ティラミス」作りにも活用できます。可愛いらしい見た目はキッチンに華を添えてくれそう。

エスプレッソマシン

   家庭用の安価なマシンでも、カフェに負けない美味しいコーヒーを作ることは可能で、ラテアートにも挑戦出来ます。高価なグラインダー(豆を挽く機械)も必須ではなく、極細挽き出来る手挽きタイプでも十分(ポーレックス社の手挽きミルがおすすめ)。自宅にいながらフラットホワイトやロングブラックをいつでも味わえ、おもてなしにも喜ばれます。コーヒー豆は新鮮なものを使いましょう。エスプレッソの抽出も、ミルクのスチーミングも慣れが必要ですが、研究しがいがあります。目指せホームバリスタ。

スペシャリティーコーヒーとは

   近年、巷で耳にするこの言葉。コーヒーの果実の生産・精選・選別に至るまで徹底して管理された極上のコーヒー豆のことを言います。「ブラックコーヒー=苦い」と思いこんでる方も多いと思いますが、コーヒー豆の品質が良く、適正に焙煎された豆で淹れられたコーヒーは複雑なアロマ(香り)、爽やかな酸味と、ほのかな甘味を感じさせてくれます。様々な国別のコーヒー豆を試し、味の傾向を楽しみ、自宅にいながら世界をコーヒートリップしてみましょう。

NZでエンジョイ・コーヒー

   今回は「比較的安価に取り揃えることの出来る器具を使って、自宅でコーヒーライフを楽しむ」をテーマに記事を書きました。ペーパーフィルター等を使って淹れたコーヒーは豆の個性を味わうのに適した抽出方法で、とりわけ自家焙煎に取り組む優れた店が多いクライストチャーチだからこそ、カフェでフラットホワイトを飲むだけでなく、新鮮な豆を購入し、自分で淹れてみることで新たなコーヒーの美味しさに気付くことが出来ると思います。コーヒーの楽しみ方に決まりはありません。是非自分のコーヒーライフを見つけ、楽しみましょう。



プロフィール

Yusuke Mino
自転車で世界を旅するコーヒー好き男子。これまでの訪問先は東南アジア、西ヨーロッパ、ニュージーランド。

ニュージーランドではワーキングホリデーを利用して現地のカフェで1年間働いていました。

詳しい旅行記や写真については下記のホームページをご覧下さい。
「本日も、さすらい喫茶」 http://www.sasuraikissa.com

今回のエピソードは、 http://www.sasuraikissa.com/single-post/570b86910cf21d117956b863

 編集より一言:写真もビデオもとても素敵な彼の旅行記をぜひみてみてください。